免疫制御研究部門 研究内容

サイトカイン研究

免疫とサイトカイン

人間には、外から侵入した細菌やウイルスといった異物である敵に対してそれを排除し生体を守る生体防御機構、すなわち『免疫』があります。一方、自分の組織などの自己である味方に対して反応したり(自己免疫)、花粉や食べ物にまで過敏に反応してしまう(アレルギー)のも『免疫』です。このような免疫機構を担当している細胞には、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ、樹状細胞などがありますが、これらの細胞間の情報伝達を担っているのが、サイトカインと呼ばれる微量で強い生理活性を示す蛋白分子です。サイトカインは、ネットワークを形成し、互いに制御し合い、免疫担当細胞を活性化したり、時には抑制的に働いたり、さらに、癌細胞のような標的細胞を直接攻撃したりする様々な作用を有しています。現在、サイトカインのみならず、サイトカインに対する抗体が治療薬として盛んに検討されており、抗体医薬は目覚ましい発展を遂げています。

日本人の研究者によるサイトカイン研究

日本人の研究者によるサイトカイン研究は、ウイルス抑制因子(インターフェロン)発見の長野泰一先生・小島保彦先生、IFN-α/β同定の長田重一先生・谷口維紹先生、IL-2の谷口維紹先生、G-CSFの長田重一先生、DNAX研究所設立の新井賢一先生、IL-4の本庶佑先生、IL-5の高津聖志先生、IL-6の岸本忠三先生・平野俊夫先生、IL-8の松島綱治先生、そしてIL-18の岡村春樹先生・中西憲司先生らと、数多くの著名な先生がサイトカインの発見や同定、クローニングに貢献しています。

免疫学におけるサイトカイン研究のブレークスルー

1986年に、MossmanとCoffmanが抗原刺激を受けたヘルパーT細胞が産生するサイトカインの種類により、INF-γを産生し細胞性免疫反応の誘導に重要なTh1細胞と、IL-4やIL-5、IL-13を産生し液性免疫反応の誘導に重要なTh2細胞に大きく分かれることを見い出し、その後獲得免疫反応をTh1反応とTh2反応のバランスで考えるようになりました。そして1992年にTrincheriやGatelyによりIL-12 (p40/p35)が同定され、Kenneth MurphyやGlimcherによりIL-12がTh1分化誘導に重要なサイトカインであり、そのマスターレギュレーターはT-betであることが見い出されました。その後、IL-12のp40に対する中和抗体や欠損マウスを用いた解析により、IL-12が実験的自己免疫性脳脊髄炎 (EAE )などの自己免疫性疾患の誘導に重要である報告がされました。ところが、DNAXのKasteleinらにより2000年にIL-12のp40を共有する新しいサイトカインIL-23 (p40/p19)が同定され、2003年にCuaらによりp19欠損マウスが作られ、p35欠損マウスとの比較により、EAEの発症にはIL-12ではなくIL-23が重要であることが明らかになりました。この発見が大きなブレークスルーとなり、IL-23が炎症性のサイトカインIL-17産生を増強し自己免疫性の炎症反応を誘導していることが明らかになり、CuaやKuchroo、Stockinger、WeaverらによりこのIL-17を産生する新しい細胞集団がTh17細胞と呼ばれるようになりました。そして、Dan LittmanとCuaらによりこのTh17分化のマスターレギュレーターはRogγtであることが報告されました。現在、Th17細胞の分化誘導には、TGF-βとIL-6が重要で、IL-23はTh17細胞の増殖と病原性の維持に重要であると考えられています。2002年には、Kasteleinらにより新しいサイトカインIL-27 (EBI3/p28)が同定され、このサイトカインは初期のTh1分化を誘導するのみならず、後期のTh1分化やTh2、Th17分化を抑制することが明らかになってきています。2007年には、このEBI3とIL-12のp35が会合した新しいサイトカインIL-35 (EBI3/p35)がVignaliらにより同定され、制御性T(Treg)細胞の免疫抑制作用を担っているだけでなく、IL-35を産生するTreg (iTr35)細胞を分化誘導することも明らかにされました。実は、EBI3とp35が会合することは1997年にEBI3を同定したDevergneらにより報告されましたたが、当時はその機能の同定までには至りませんでした。

 

自然リンパ球

最近、自然免疫系において獲得免疫系のTh細胞に対応したサイトカイン産生パターンを示す自然リンパ球の存在が明らかになってきました。Th細胞の場合のサイトカイン産生を誘導する刺激は抗原刺激ですが、自然リンパ球の場合はサイトカイン刺激です。古くから知られているIL-12とIL-18で強くIFN-γを産生するナチュラルキラー(NK)細胞(ILC1)の他に、IL-25やIL-33で刺激するとIL-4やIL-5、IL-13を産生するナチュラルヘルパー(NH)細胞(ILC2)や、IL-23で刺激するとIL-17やIL-22を産生するILC3細胞などが存在することがわかってきました。

疾患モデルマウス
疾患モデルマウス

当研究室での研究

当研究室では、このようなサイトカインの免疫制御における役割や作用機序、産生機構について研究するのみならず、新規サイトカインや新規機能の同定も試みています。主に、標的遺伝子を欠損させた遺伝子欠損マウスや高発現させたトランスジェニックマウス、特異的抗体、精製組換え蛋白などを用い、さらに、自己免疫疾患・感染症・癌・アレルギーなどの種々のマウス疾患モデルと組み合わせて、生理的条件下および病態形成における役割や治療応用の可能性 について検討を行っています。

IL-6/IL-12サイトカインファミリー
IL-6/IL-12サイトカインファミリー

IL-6/IL-12ファミリーサイトカイン

サイトカインの中で、我々が注目しているのは、IL-6/IL-12ファミリーサイトカインです。このファミリーのサイトカインは、他のサイトカインとは異なり、サイトカイン自身が2つのサブユニットからなるヘテロダイマーであり、主に抗原提示細胞である樹状細胞やマクロファージから産生され、Th細胞の分化誘導や機能発現の制御に重要な役割を担っています。

これまでの研究

当研究室では、これまでにIL-6/IL-12ファミリーサイトカインのIL-12、IL-23、IL-27、IL-35について、産生機構や機能発現の制御、シグナル伝達機構、生理的条件下や病態形成における役割を明らかにしてきました。

IL-27は種々の細胞に直接作用する
IL-27は種々の細胞に直接作用する
IL-27は炎症誘導作用と抑制作用の両方の機能を有する
IL-27は炎症誘導作用と抑制作用の両方の機能を有する

IL-27の抗腫瘍効果
IL-27の抗腫瘍効果
IL-27/IL-27Rのサブユニットの役割
IL-27/IL-27Rのサブユニットの役割

最近の研究

1. 新しいIL-6/IL-12ファミリーサイトカインと機能の同定

IL-6/IL-12ファミリーサイトカインのサブユニットの単独および他のサブユニットとの会合分子としての新しい機能の発現の可能性について検討を行っています。例えば、EBI3欠損T細胞は、免疫不全マウスにナイーブCD4陽性T細胞を移入して誘導する腸炎の発症が軽減することを見出し解析しています。さらに、腫瘍細胞内にEBI3を強制発現させると悪性度が増す結果を得ており、この時p28p35発現は見られない。また、他のグループより、正常細胞に比べ腫瘍細胞でEBI3発現が高く、EBI3発現が高い癌患者ほど予後が悪い結果も報告されており、EBI3と腫瘍増殖との関連について解析しています。一方、p19のコンディショナル欠損マウスを作製し、新たなp19の役割も検討しています(免疫学講座・水口教授との共同研究)。

 

2. 生理的条件下および病態形成におけるIL-6/IL-12ファミリーサイトカインの役割と治療応用

以前よりIL-23IL-27の種々の腫瘍に対する抗腫瘍効果やその作用機序に関して研究を行ってきています(HIsada et al. Cancer Res. 64, 1152-1156, 2004)。また、最近、我々はIL-27が抗腫瘍効果を示す際、マクロファージの浸潤が多く見られることに注目しています。以前に、IL-27が造血幹細胞やヒト臍帯血由来造血幹細胞に作用し、ミエロイド系細胞に分化誘導することを見出しましたSeita et al. Blood 111, 1903-1912, 2008。そこで、IL-27によるこの造血幹細胞や前駆細胞の増殖・分化増強能力を用いた新しい抗腫瘍作用の解明や免疫細胞療法の確立を目指しています(外科学第三講座・土田先生との共同研究)。一方、IL-6/IL-12ファミリーサイトカインの精巣炎への影響も解析しています(人体構造学講座・伊藤教授との共同研究)

 

3. 皮膚炎症の誘導におけるIL-6/IL-12ファミリーサイトカインの役割と治療応用

IL-6/IL-12ファミリーサイトカインやこれらのサイトカインにより産生誘導されるIL-22などのサイトカインの皮膚炎症誘導における役割を検討しています。マウス接触皮膚過敏症(CHS)や乾癬モデルなどのよる炎症誘導への役割を検討しています。

 

4. 慢性骨髄性白血病患者の免疫学的解析

慢性骨髄性白血病は、フィラデルフィア染色体と呼ばれる異常な染色体が生じることで、BCR-ABLという融合遺伝子が生成され、恒常的に増殖シグナルが入り白血病細胞が限りなく増殖していく病気です。今日では、このBCR-ABL遺伝子を標的にしたチロシンキナーゼ阻害剤イマチニブが開発され、9割近い患者に細胞遺伝学的完全寛解が認められるようになりましたが、いつまでイマチニブを飲み続けなければならないかが大きな問題となっています。我々は、残存白血病細胞を抑え込んでいるのは免疫監視機構であると考え、患者の末梢血単核球の各種リンパ球の細胞表面マーカーやサイトカインなどのエフェクター分子の細胞内染色などの解析を行っています。(内科学第一講座・大屋敷一馬教授と医総研・分子腫瘍部門・大屋敷純子教授との共同研究)。

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